大日本コンサルタント株式会社

希少猛禽類への工事影響の低減策検討

向後 高明

東京支社 地域・環境計画室
入社:1997年
専攻:海洋土木工学
保有資格:技術士補(環境部門)

向後 高明

東京支社 地域・環境計画室
入社:1997年
専攻:海洋土木工学
保有資格:技術士補(環境部門)

保全対策の「見える化」による関係者の合意形成

自然環境との共生、快適な環境空間の創造は、開発事業に携わる者にとって重要なテーマである。

大日本コンサルタントは、このテーマの実現のため、道路整備における環境影響評価事業を中心に、環境分野を専門とするコンサルタントが様々な調査や動植物の保護対策を実施してきた。特に猛禽類については、その保護が重要視されるようになった1990年代から、調査や保護対策の検討に力を入れており、当社が得意とする分野のひとつでもある。

環境庁(当時、現在は環境省)から「猛禽類保護の進め方」が発行された1997年に、向後は当社に入社し、1年目から猛禽類の保護対策に携わってきた。向後が入社6年目で担当した業務は、バイパス工事に際して、希少猛禽類への影響を低減するための対策を検討するものであった。

トンネル掘削による希少猛禽類への影響調査および保護対策の検討

「希少猛禽類への工事影響の低減策検討」とは、どのような業務でしたか?

あるバイパス整備工事予定地周辺の崖地に希少猛禽類の生息が確認されており、その営巣地に近接する区間をトンネル掘削するため、工事による影響を想定した上で、それを低減するための対策を検討する必要がありました。私は、主担当者として、環境調査の計画から実施、保護対策の検討、モニタリング計画の検討・実施など、ほぼ業務の全般を行ってきました。

業務の中でもっとも困難だったのは、どのような点でしたか?

当該路線は、近接する道路が崩落により不通になることも多いことから、これを回避する意味からも整備が急がれた路線でした。

しかし、猛禽類は生態系の頂点に位置するため、その保護は特に重要であり、希少猛禽類の営巣放棄を危惧する環境保護団体からも、設計を変更するか工事を非繁殖期のみとするよう、強い要請がありました。

業務の中でもっとも困難だったのは、どのような点でしたか?

当該路線は、近接する道路が崩落により不通になることも多いことから、これを回避する意味からも整備が急がれた路線でした。

しかし、猛禽類は生態系の頂点に位置するため、その保護は特に重要であり、希少猛禽類の営巣放棄を危惧する環境保護団体からも、設計を変更するか工事を非繁殖期のみとするよう、強い要請がありました。

工事予定地と営巣地のイメージ図

工事予定地と営巣地のイメージ図

生態系ピラミッドのイメージ

生態系ピラミッドのイメージ

猛禽類のイメージ

猛禽類のイメージ

トンネル工事を行うためには、希少猛禽類への影響要因を取り除くと同時に、事業者は有識者や環境保護団体に十分な根拠を持って説明し、双方からの理解を得る必要がありました。

ビデオ監視カメラについては、調査員が利用している地上望遠鏡とカメラを組み合わせて利用することを考え、当地専用の遠隔操作カメラを専門会社に委託して開発しました。これにより、社内にいながらカメラを操作できるようなり、理想的な常時監視モニタリングが可能になりました。また、希少猛禽類の行動と騒音の関係を明確にするため、モニタ内に現地の騒音値を表示するようシステムを整えていきました。さらに、施工会社および発注者を含めた万全の体制で工事を進めることで、工事による影響が見受けられた際には、早急な対応ができるように配慮しました。

モニタリング体制のイメージ図

モニタリング体制のイメージ図

設置したビデオカメラ

設置したビデオカメラ

開発したビデオカメラ

開発したビデオカメラ

トンネル工法の検討の際には、当社トンネル計画室との連携により、発破による振動を極力抑えた工法の採用や、トンネル坑口における切土法面の縮小など、様々な保全対策を講じ、希少猛禽類への影響を極力抑えるよう努力を行いました。また、施工会社への環境保護に関する講習会も開催し、関係者全員が同じ意識を持って事業を進めることにも留意しました。

以上のように、希少猛禽類への影響を整理し、最大限の保護対策を考案するとともに、これらを分かりやすい資料の作成により「見える化」し、事業者と環境保護団体の双方に分かりやすく丁寧に説明することで、トンネル工事についての合意を得ることができました。

保全対策の「見える化」により、関係者の合意を形成

その課題にどのように対処されましたか?

希少猛禽類への影響要因としては、人圧(人の気配)・騒音・振動などが考えられますが、当時は一般的な猛禽類へのそういった影響程度は良く分かっておらず、文献等もほとんどない状況でした。

そのため、当該地に生息する希少猛禽類の個体に的を絞り、影響評価を実施しました。

当該地の希少猛禽類への影響を評価するためには、希少猛禽類のこれまでの生息環境と繁殖状況を整理した上で、トンネル工事による環境負荷状況と比較する必要がありました。このため、周辺での人の出入り、交通状況、工事状況、崖地での崩落状況などから、人圧・騒音・振動を分析することで、希少猛禽類の生息環境を明らかにしました。

モニタでの監視状況イメージ

モニタでの監視状況イメージ

分析の結果、希少猛禽類の行動エリア内では、過去にも様々な工事や、イベントなどが行われており、希少猛禽類はかなりの人圧や騒音の中で生息および繁殖をしていることが分かりました。これらを数値的に表すために、当時の工事状況などから営巣地周辺での騒音値を整理した上で、今回の工事の影響度と比較し、工事による騒音は大きな影響要因にはなり得ないことを予測しました。

しかし、トンネル掘削に伴う振動の影響については未知数で課題として残ったため、鳥類やトンネル、地質学などの第3者の専門家による検討委員会の見解を得ながら、保全対策およびトンネル工法の検討を行いました。専門家による見解は「十分なモニタリングを行う必要はあるが、慎重な対応を行うことでトンネル工事を着工することは可能」というものであり、これを受けて、崖地での振動計測監視、およびビデオ監視カメラによる常時モニタリングを提案しました。

丁寧な保全対策と分かり易い資料の作成が、開発に携わる者のテーマを実現することに

様々な検討の甲斐あって、希少猛禽類が毎年繁殖する中、業務受注後の3年後にトンネルは無事貫通しました。モニタリングの解析の結果においても、工事前の2003年と、工事中の2004年では、同じような行動が見られ、トンネル工事が希少猛禽類に与えた影響は確認されませんでした。

本業務では、環境に影響を及ぼす幾つもの要因を一つ一つ丁寧に取り除くと同時に、検討委員会にはそれを分かり易く説明すること、事業者には絶対の自信と根拠を持って資料を作成し、説明することが、両者の合意を形成し、ひいては開発事業に携わる者のテーマである「自然環境との共生」「快適な環境空間の創造」を実現することに繋がることを実感しました。最初は見解の相違があった環境保護団体の委員と、何回も議論を重ね、トンネル貫通後には、焼き鳥を食べながら「ありがとう」と言ってもらったことが今でも印象に残っています。

ベトナム・ハノイにてプロジェクトメンバーと(左手前が本人

ベトナム・ハノイにて
プロジェクトメンバーと
(左手前が本人)

向後によれば、環境コンサルタントとしての厳しさは、「いかに客観的で信頼性の高い予測評価の資料を作成し、関係者全員の合意が得られる保全対策を検討するか」であるという。一方で、問題を解決した時の達成感、また「生活環境や自然環境を守っている」という子供への誇りが、やりがいになっている。

現在は、特に海外の業務に関心を持っており、2007年にはベトナムの高速道路の実現可能性調査、2008年のバングラデシュの道路の事前調査にプロジェクトメンバーとして参加するなど、活躍の場を広げている。