名港西大橋(上り線)の耐震補強設計

名港西大橋(上り線)(以下、名港西大橋)は、伊勢湾岸自動車道名港中央ICと飛島ICの間に架かる橋長758m(175m+405m+175m)の斜張橋で、1985年に供用を開始しました。

名港西大橋の設計は、当時に想定された大規模地震を考慮していましたが、「平成24年道路橋示方書」にて規定された設計地震動、また、本橋の地点で想定される最大規模の地震動に対する耐震性能の照査で、橋梁各部(主桁や塔など)において「平成24年道路橋示方書」の制限値を超過する結果となりました。

そこで、制震・免震技術を駆使したエネルギー吸収や地震時移動量の抑制を図り、主桁・塔の補強を最小限に抑えることを基本コンセプトとし、海上での施工条件の制約を考慮した耐震補強計画を立案しました。

工事では、供用中の重交通路線や名古屋港の大型定期船のへ影響を最小限にするとともに、高所かつ狭隘部での安全確保に留意し、約2年の工期を経て2017年7月に無事耐震補強を完了しました。


耐震補強基本設計の基本方針

名港西大橋の耐震補強基本設計は、レベル2地震動に対し「平成24年道路橋示方書」に示す耐震性能2を確保することを目標性能としました。主桁、塔、斜ケーブル、支承部は、原則として鋼材の降伏点または座屈強度以下とし、端橋脚においてはせん断破壊を避け、鋼部材の局部的な塑性化を避けられない場合は、FEM解析によって部材としての力学挙動の線形性と耐荷力に対する余裕を確認することとしました。


耐震補強基本設計の流れ

耐震解析の信頼性を確保するため、耐震補強前の構造を対象に解析モデルの妥当性を検証しました。具体的には、名港西大橋建設時の設計図書の情報から、斜ケーブルの初期張力と主桁のたわみ量を調整し、固有振動数や主桁、塔に作用する断面力が妥当であるかを検証しました。

妥当性の検証後、耐震補強前の構造にてレベル2 地震動に対する時刻歴応答解析を実施し、終局挙動特性を把握した上で合理的な耐震デバイス(免震支承,制震ダンパー)の配置を計画した構造を立案しました。

この補強後の構造に対し、レベル2地震動に対する時刻歴応答解析を再度実施し、適切な耐震デバイスの諸元を決定しています。補強後の構造において照査を満足しない部位に対しては、その対策を立案し、具体的な耐震補強対策構造の基本設計を行っています。

全体一般図(耐震補強の内容を記載)


国内最大規模となる制震ダンパー

名港西大橋は支間長が長いため、温度変化1℃あたり桁の端部に5mm弱の移動が起こります。そして、斜張橋である名港西大橋は活荷重による振り幅が大きいことから、動的解析結果、耐震補強のために必要とされるダンパーの設置ストローク長は橋軸方向に±650mm、また、ダンパーの要求性能として定格抵抗力2000kN、応答速度3.2m/sが必要であると判明しました。

上記条件のダンパーの性能を確認するため、縮小試験体を用いた速度依存性の性能確認試験と部分実大試験体での試験が行われました。試験の結果、±650mmのストローク下においても従来製品と同等に安定した履歴の試験結果を得ることが確認されています。

 

名港西大橋の耐震補強基本設計では、制震ダンパーの他、アップリフト防止ケーブルの設置、既設ウインド支承の改良、主桁への部材追加による断面補強、免震ゴム支承への交換による免震化も行われており、名港西大橋の塔部で上下部構造を弾性的に支持する役割を果たしていた既設の弾性拘束ケーブル(MCD:Meiko-Cable-Damper System)を、免震ゴム支承とともに地震力を分担する機能を持たせる新しい構造へと変更を行っています。

 

塔部では耐震デバイス等の設置部材が集中・輻輳(ふくそう)するため、CIM(Construction Information Modeling)を活用し、部材の干渉防止と供用中の構造物の安定性確保、また、温度変化及びMCDの張力解放による塔と主桁の挙動を確認しながら施工(詳細設計)管理が行われました。

 

※1 弾性拘束ケーブルの張力を導入・解放するため、センターホールジャッキを設置している状況
※2 補強前後の7~10日間で24時間連続(10分毎)の変位計測により、複雑な斜張橋の全体挙動を把握し解析値と比較しながら施工(詳細設計)管理に反映された


現場施工への配慮

現場施工全般が海上38mでの高所作業となる上、主桁内部や橋脚・塔上の狭隘な場所での施工環境となることから、空中作業の軽減、部材吊場・吊降工の合理化、部材移動の効率化、作業スペースの確保などが検討され、一括吊上が可能なパネル構造の足場を採用する等の施工上の工夫が行われています。さらに、取扱い貨物量日本一(1億9778万トン/2015年時点)を誇る名古屋港内での施工に際し、所管の行政官庁及び港湾関係者への理解と周知徹底が図られ、特に、名港西大橋が跨ぐ大型船の定期航路については航路幅確保のため、付近を運航する船舶の状況をリアルタイムで把握するレーダー監視などが実施され無事に工事完成へと至っています。

※3  狭隘部の施工環境で安全性を確保し、最小限の移動で部材のセッティングを実現するため、移動レール、架台等の設置と吊冶具等レイアウトが工夫されている。

 

※4 航路確保のため作業台船は塔基部の側面に配置。また、高所の施工環境で安全性を確保するため、電動チェーンブロックを高精度で同調するシステムを構築して部材の吊揚・吊降が実施された。

名港西大橋(上り線)耐震補強設計の詳細な内容は「橋梁と基礎 2018年11月号」に掲載されています。

 

所在地 愛知県名古屋市港区~愛知県海部郡飛島村
橋長 758m(桁長:755m)
支間長 175m + 405m + 175m
構造形式 鋼3径間連続斜張橋(鋼床版箱桁)
事業主 中日本高速道路株式会社
基本設計 大日本コンサルタント株式会社
施工(詳細設計) 瀧上工業株式会社
付属物 株式会社川金コアテック(制震ダンパー、支承)
工期 平成27年8月~平成29年7月