耐震解析・設計

1.制震技術による長大斜張橋の合理的耐震補強 -東神戸大橋-

阪神高速道路の長大橋のうち、東神戸大橋(5径間連続鋼斜張橋、橋長885m、中央径間485m、支持形式:オールフリー)の大規模地震に対する耐震補強設計を実施しました。橋全体の解析モデルを用いた高度な地震応答解析技術を駆使してシミュレーションを行った結果、大規模地震時の主桁変位(橋軸方向)が2mに達することから、大変位・大反力に適応可能な縦置きサンドイッチ型超高減衰積層ゴムダンパー+ケーブル構造という新たな制震技術を活かし、橋軸方向の水平変位が大幅に低減できることが確認できました。

縦置きサンドイッチ型にしたことで積層ゴムがスムーズに変形し、両側に16.7mのケーブルを配することで、主桁の大変位に伴う上下左右の偏心ずれを吸収することができます。施工性、経済性等の観点から、ダンパーの効きを最大限引き出せるように、性能確認実験及びゴム形状の最適化等を繰り返し検討し、新しい制震技術を活かした合理的な耐震補強を実現しました。また、実際の施工では、ケーブルの張力管理やサグ量の管理など、高精度でダンパーが設置され、現場見学会で感動した思い出があります。

    • ケーブルサグの低減とケーブルの効きをよくするため、初期プレストレス(2000kN)を導入
    • ゴムダンパー部にはアルミニウム-マグネシウム金属溶射を採用し、長期の防食性能を確保
    • 東神戸大橋の美しい景観を損なうことなく耐震補強を完了

【参考】
平成22年度土木学会賞 技術賞(Iグループ)受賞
公益社団法人土木学会
制震技術による長大斜張橋の合理的耐震補強-東神戸大橋と天保山大橋-
受賞者:阪神高速道路株式会社、ショーボンド建設株式会社、日立造船株式会社、川金コアテック株式会社、株式会社綜合技術コンサルタント、大日本コンサルタント株式会社


2.耐震性能グレードを考慮したハーバーハイウェイ長大橋部の耐震補強事業

鋼中路式3径間ダブルデッキアーチ橋の神戸大橋(橋長319m)、鋼5径間連続V脚ラーメン橋の灘浜大橋(橋長400m)他、神戸港港湾幹線道路ハーバーハイウェイの長大橋6橋の耐震補強事業計画の立案に当たり、構造性、施工性、経済性、維持管理において合理的な耐震対策を行うため、各長大橋の機能と役割に基づき、個別に耐震性能グレード(要求性能)を設定した耐震補強設計を実施しました。

対象橋梁は兵庫県南部地震を経験しており、その際のデータ(地盤、損傷、復旧実績等)を限界状態の設定や復旧の優先順位付けに有効活用し、損傷許容箇所と補強箇所の絞り込み等、メリハリをつけた性能設計として具体化したものです。本業績は、長大橋の耐震補強事業計画において、橋梁の目的別に重要度を分けた性能設計を新たに採用したこと、長期間の交通規制を伴わない施工期間の短縮(工期:約1年)や経済性等の観点から地域への貢献度が高いことなどが評価され、平成22年度 土木学会関西支部 技術賞を受賞しました。

設計では、設計地震動の算定~耐震性能評価~耐震補強工法検討~詳細設計~施工完了まで、委員会運営と並行して実施しました。新たな性能設計を実施するという目的を達成するため、委員の先生方には懇切丁寧な御意見を頂きながら、何度も足を運び、打合せを行わせて頂いた思い出があります。簡易なモデルで大がかりな補強を行うのではなく、鋼部材特有の座屈現象を考慮する橋全体系の複合非線形動的解析や一部にFEMシェル要素を組み込むなど高度な解析技術を駆使し、地震時の応答精度を高めることで、橋ごと、部材ごとに設定した要求性能を満足すべく性能設計を行って合理的な耐震補強対策を実現できたことは、将来の性能設計の足がけになると感じています。

【参考】
平成22年度土木学会関西支部 技術賞 受賞
平成22年度土木学会関西支部技術賞
耐震性能グレードを考慮したハーバーハイウェイ長大橋部の耐震補強事業
受賞者:神戸市みなと総局、大日本コンサルタント株式会社大阪支社、株式会社建設技術研究所大阪本社、ショーボンド建設株式会社近畿圏支社


3.「性能設計」時代を先取りする技術開発

現場で発見した課題解決のための技術開発にも果敢にチャレンジしています。 例えば、河川内橋脚の耐震補強巻立てに伴う仮設工事費を削減するために、平成10年頃から開発に着手した桁衝突工法である。橋台の抵抗力を橋全体の地震時の挙動に上手く考慮すれば、橋脚の動きが拘束され、河川内の巻立てが回避できるとのアイデアは業務の中から生まれました。初めは橋台部のモデル化ができないため、時期尚早という理由で発注者や土研からも採用が見送られたが、7年の研究を重ねて、橋台部のモデル化の妥当性を検証し、NE桁衝突工法として特許も取得し、現時点で100橋近い実績を重ねるまでになっています。検証にあたっては1999 年の台湾集集地震や2004年の新潟県中越地震、2016年の熊本地震での桁衝突による橋台部の被害状況など、現地・現物の観察も役立てています。

他にも、鋼上路式アーチ橋の耐震補強設計に適用した既設部材を利用する拘束管工法など、実橋の実挙動に着目してひらめいたアイデアを高度な解析技術によるシミュレーションや実験で検証して、実際に適用するこれらの事例は、いわゆる「性能設計」であり、将来の技術力を育む礎になると確信しています。


図-1 NE桁衝突工法(概要図)


図-2 間詰め材(クロロプレンゴム)

図-3 施工状況
【参考】
NE桁衝突工法(実績:約100橋)
◎橋梁の耐震補強方法、及び、この方法に使用する伸縮装置
(特許番号:特許第4477556号・登録年月日:平成22年3月19日)