気仙沼湾横断橋

東日本大震災からの復興のリーディングプロジェクトとして国土交通省が中心となって三陸沿岸道路の整備が行われました。気仙沼湾横断橋は、三陸沿岸道路が気仙沼湾を横断する所に架かる橋梁です。当社は、全長1,344 mの気仙沼湾横断橋のうち、海上部680 mの斜張橋の設計を担当しました。

斜張橋の設計では、維持管理をしやすく、想定外の事象に対しても損傷が制御され、かつ美しい形態の橋を基本コンセプトとしました。また、ダメージコントロール設計という新たな設計手法を取り入れ、想定を超えるような地震に対しても粘り強い構造にするなど、様々な工夫を施しました。

気仙沼湾横断橋は、事業化から9年4カ月という短い期間で工事が完了し、2021年3月6日には無事に開通の日を迎えることができました。これは、関係者一同の震災復興への強い思いと、技術者たちの気仙沼にふさわしい橋を造りたいという熱い思い、そして、発災から10年となる前に端麗で伸びやかな姿を完成させようとの工事関係者の堅い意志の賜物です。

 

橋の「かたち」について

橋の「かたち」は一般に、橋の長さや安全性、耐久性、施工時の品質確保、維持管理の確実性、容易性などについて検討され、架設条件に合った橋梁形式が選定されます。気仙沼湾横断橋では、これらに加えて、地域にとってこの橋がどうあるべきかを言葉で表現した「建設コンセプト」、橋梁設計者がこの橋を設計するにあたって着目するポイントを端的に表現した「設計コンセプト」が「気仙沼地区橋梁技術検討総括委員会」によって設定され、これらに基づいて橋梁形式が検討されました。検討の結果、気仙沼にふさわしい橋梁形式として「鋼3径間+6径間 連続箱桁橋(陸上部)+ 鋼3径間連続斜張橋(海上部)」が選定されました。

気仙沼湾横断橋 側面図


建設コンセプト

気仙沼湾の象徴となり、自然豊かな風景と調和した地域の発展・復興を支える橋

設計コンセプト

維持管理しやすく、想定外の事象に対しても損傷が制御され、かつ美しい形態の橋


海上部の橋梁形式として選定された「斜張橋」には、タワーの形やケーブルなどの配置の違いによる様々なデザインの「かたち」があります。斜張橋としては東北地方で最長となる気仙沼湾横断橋の詳細設計では、橋に求める性能を具体的に示す「要求性能マトリクス」を設計前に整理し、気仙沼にふさわしい斜張橋の「かたち」について検討しました。

PDF要求性能マトリクス(抜粋版)

 

思いをかたちに

気仙沼湾横断橋の海上部の特徴的な「かたち」は、高さ100 mのタワーから路面中央部で桁を支える一面吊りの斜張橋といいいます。ケーブルを中央に配置するので、橋梁点検車を用いて容易に橋の裏側(桁下)の点検ができますし、2面吊り斜張橋に比べてケーブル本数を少なくできるので、その点でも点検の時間と費用を削減できます。維持管理の容易性は橋の健全性維持の容易性につながり、橋の長寿命化が期待できます。

しかし、1面吊り斜張橋には2面吊りの斜張橋に比べてケーブル1本が支える重量が大きくなるという課題もあります。気仙沼横断橋の詳細設計では、どのように設計すれば1面吊りの斜張橋が、前述した「2つのコンセプト」と「要求性能マトリクス」の要件を満たせるのか、すべての橋のパーツ(部材)の寸法、細部の形状・仕様に至るまで詳細に検討し、解析や実験を重ねて検証しました。

気仙沼湾横断橋の技術的な特徴のひとつに「ダメージコントロール設計」があります。気仙沼湾横断橋には、暴風時(巨大台風)や路上事故・火災、地震・津波、漂流物の衝突などが発生しても、また、想定しうる範囲内の最大規模の地震とその後に繰り返される大規模な余震に対しても緊急輸送路としての供用性を確保できることが求められます。そのために先ず、災害によって橋の破壊がどのようにして起こるのかを分析し、それを避けるための設計・解析を行い、課題があれば橋を構成する各パーツの設計を再度修正するというプロセスを繰り返すことにより、「想定外」の損傷を「想定内」とする設計、すなわち「ダメージコントロール設計」を実施しました。

その他にも、錆はボルトなどの突起部分から進行しやすい特徴があるため、潮風による錆を避けるために道路を支える桁にはボルトなどの突起を極力設けないように「全面現場溶接継手」としたことや、日常の維持管理のための点検をしやすくするように桁やタワーの内側の部材の角度や間隔に配慮したことなど、ここで全てをご紹介しきれないほど、橋の細かなパーツにおいても「要求性能マトリクス」の要件を満たせる設計を行っています。

主桁断面

気仙沼湾横断橋の主塔のデザインは、その姿や佇まいが美しくなるように、作用する力に素直に従った逆Y型とし、塔頂の1本柱部から下へ二股に分かれて延びる部分を滑らかな曲線でつないでいます。主塔や主桁の色彩は、シンボル性を示す白色としました。

主塔・橋脚・主桁のデザイン

主塔・橋脚・主桁のデザインについて

 

愛称「かなえおおはし」

気仙沼湾横断橋の愛称は、公募によって気仙沼湾の形を表した土地の名前の「鼎(かなえ)が浦」と、「夢・願い・希望を叶える」の両方の意味が込められ「かなえおおはし」と名づけられました。また、気仙沼湾横断橋の桁下には気仙沼湾を行き来する船舶に向けて「貴船の帰港を歓迎する」と「貴船の安全航海を祈る」を意味する国際信号旗が掲示されています。

気仙沼湾横断橋の完成によって仙台市から宮古市への所要時間は、震災前と比べ約2時間短縮されて約3時間半となりました。自由に往来が出来るようになりましたら、是非、夢・願い・希望を「かなえる」気仙沼湾横断橋を渡って、気仙沼に残る「みなと文化」の豊かさに触れてみてはいかがでしょうか。

参考:

気仙沼漁港の「みなと文化」 川島 秀一氏 著
https://www.wave.or.jp/minatobunka/archives/report/011.pdf
出典:みなと文化研究事業|港別みなと文化アーカイブス(一般社団法人みなと総合研究財団)

橋梁と基礎 2020年10月号 特集:(仮称)気仙沼湾横断橋
http://www.kensetutosho.com/Magazine/kyouryou/2020_10_kyouryou.html

 

架橋位置 宮城県気仙沼市小々汐地区~朝日地区
事業主 国土交通省 東北地方整備局 仙台河川国道事務所
橋長 1,344m(陸上部664m+海上部680m)
斜張橋支間長 L=360m(東北最大)
斜張橋主塔 高さ100m
斜張橋支間 160m+360m+160m