橋梁点検・評価を支援するAI技術

全国の橋梁約70万橋に対して5年ごとの点検が義務付けられ、一定の安全性は確保されている一方、点検費用の増大や橋梁専門技術者の減少等への課題も発生しており、維持管理における作業負担の軽減や生産性向上に資する技術開発が期待されています.こうした課題への解決を図るべく、産学官で活発にAI技術の研究・開発が進められています。橋梁維持管理分野では変状検出、診断支援、計測技術、データ蓄積に大別されますが、当社で取り組んでいる研究開発事例を参考に、AI技術の内容や開発状況をご紹介します。

点検画像からの変状検出AI

点検現場における生産性向上に寄与するツールとして、一部タブレット端末が導入されています。このようなデバイスによる点検をより効率化するためには、損傷の自動判定技術が有効です。

下記に鉄筋コンクリート構造物に生じた剥離・鉄筋露出をAI技術で検出した結果を示します。これは畳み込みニューラルネットワーク(FCN…FullyConvolutional Network)を適用し、損傷画像と損傷位置のアノテーション(注釈付き画像)を教師データとして、新しい損傷画像に対して損傷位置を推定する学習を行わせたものです。既往の点検画像をラベリングした教師データ296枚を学習させた結果、コンクリート表面の剥離や鉄筋の露出状況を精度良く捉えていることが認められました1)

なお、本技術は、東京大学生産技術研究所と当社を含む民間各社との共同研究で開発しました。その特長に剥離境界を検出していることがあり、剥離面積の自動算出にも取り組んでいます。


鉄筋コンクリート構造物に生じた剥離・鉄筋露出をAI技術で検出した結果

1) 柏 貴裕、長井 宏平、龍田 斉、井林 康、Helmut Prendinger、Juanjo Rubio:畳み込みニューラルネットワークを用いたコンクリート床版の損傷検出、土木学会第73回年次学術講演会、CS-10、pp.31-32、2018

 

橋梁諸元および環境条件からの劣化原因推定、補修工法選定支援

橋梁の補修設計では、変状に至った原因の把握が対策立案に重要であり、現地調査や各種試験によって詳細な検討が実施されてます。実際の検討では熟練技術者が変状から原因を想定して、必要となる調査、試験を立案して実施するという流れも少なくないと想定されます。さらに、補修設計では、各種の比較検討などで工法を選定しているが、ひび割れ補修や断面修復等では、同じ内容の検討が繰り返されている状況です。このような維持管理に係わる調査や設計での意思決定を支援するため、橋梁諸元データやこれまでに蓄積された橋梁点検データから、劣化原因推定、補修工法選定支援のためのAIシステムの検討を、北陸・道路メンテナンス会議に設置された「道路橋の維持管理における各構成部材の限界状態ならびにAI技術の活用に関する検討ワーキンググループ」進めています2)

検討に用いた諸元データは重要な内容を明確にするためにone-hotな表現に変換し、非現実的な値などは外れ値として除外した。本検討で使用したのはGBDT と呼ばれる複数の決定木を組み合わせてより精度の高いモデルを構築するアンサンブル手法の一種です。図-5は説明変数がモデルに与える影響を検討したもので、予測値への寄与度を視覚的に表現するSHAPを用いています。図では損傷原因のうち、「その他」を除く登録件数の多い「乾燥収縮・温度応力」に寄与する説明変数のSHAP 値を可視化しました。結果として有効幅員が大きく、昭和39年道示で設計されているコンクリート主桁のデータが寄与すると推定されます。

2) 龍田ら:勾配ブースティング決定木を用いた橋梁損傷原因および補修工法の推定と分析、AI・データサイエンス論文集、1巻J1号、pp.63-70、2020.